同人詩誌「群青」(年3回・刊)の第23号(2012年3月1日・刊)に載せた、僕のエッセイを紹介します。再任用職・時代の話です。
協力
新サスケ
僕達の仕事は、客商売であり、力仕事でもある。冬の間は客が少なく、作業も少ない。
プラットホームと呼ばれる作業場の、控え室で相棒とラジオを聞いている。FMの地域局である。平日の午前九時から十時まで、繰り返し懐メロが流れる。
女性歌手の歌謡曲を聞きながら、僕は
「ヤッさん、この歌手は誰やったかな?」
ヤッさんは僕より三つ年上、この歳になれば同年代である。
「んー、誰やったかなあ」
「『あけみ』でなかったけ。下がひらがなやった気がする」
「んー。曲さえあわかればな」
「曲はわかる。『喝采』や」
「……『ちあきなおみ』や」
「ほやほや、『ちあきなおみ』や」
僕はヤッさんの肩を抱く。(彼は僕の横に並んで座っている)。
ヤッさんは
「ひらがなは合(お)うてる。『み』も合うてる」と余計な事を言う。彼の癖である。
還暦を越えた二人でも、協力すれば難しい事も解ける。
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